ボルボやVCJにブランド戦略は必要か

  • 2019年7月5日
  • 2019年7月5日
  • コラム
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ボルボと言えば北欧の自動車会社で、安全性能の高い自動車を作ります。

というシナリオは、かなり以前から日本に定着していました。質実剛健、無骨、ファミリー向けで安全、時々ターボでどっかん走行。人によってはデザインに惚れた、という人もいることでしょう。

私たちのボルボへの愛着は、以上のようなキーワードで大体説明できると思いますが、これを崩しさった男がいます。ボルボ・カー・ジャパンの木村隆之社長です。

2019年のボルボに、質実剛健、無骨、ファミリー向け、ターボでどっかんはありません。それはプレミアムには相応しくないと彼らが考えたからに他なりませんが、おかげさまで旧来のボルボ乗りの、他車への乗り換えは加速しています。

一方、ボルボ・カー・ジャパンは悲願の年間2万台販売復帰が目前に迫っています。という事であれば、木村社長率いるVCJ(ボルボ・カー・ジャパン)の方向性に間違いは無かったと言えるはずです。

2019年7月、VCJ木村社長と自動車評論家小沢コージの連名著作として、「最高の顧客が集まるブランド戦略」という本が発売されました。aboutVOLVOは今のボルボを形作る販売戦略を紐解く為、この本を購入しました。今回はこの本の感想を述べるとともに、VCJの今後を占ってみたいと思います。

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前半は豊富な経験に裏打ちされた引き出しの数々

XC40 Car of the Year 受賞
出典:Volvo car japan

私はこの本を読む事で、良い意味でも悪い意味でも、木村隆之社長の印象が変わりました。

まず「最高の顧客が集まるブランド戦略」という本ですが、簡単にいうとこの本は、3割が初級ビジネス書、残り7割は武勇伝です。

第1章には木村隆之社長の仕事の理論が込められていて、程よく勉強になります。

体験談は木村社長の人生が見えて面白い

木村社長自身のレクサス立ち上げ時の話は面白いです。今までのトヨタの店長とは考え方の違うブランドにしたいと、レクサスの店長は適性検査で抜擢したエリートを教育して布陣したそうです。トヨタでは活躍できなかった人も、レクサスでは活躍できると考え、お客様の評判のいい人やCSを高められる人を人選しているといいます。

PDCAを毎週回すユニクロの手法の紹介も勉強になります。PDCAは一月単位で回すと、月初の目標からぶれる可能性があり、困っている人も多い事でしょう。週末の販売状況を月曜日に確認し、木曜日からの販売方法を練り上げる。週回しならブレも含めてPDCAの管理に入れられます。もちろんこれはユニクロがすごいだけですが。

顧客満足度は随分重視しているようで、リッツ・カールトンを引用。お客様の衣服にコーヒーをこぼしてしまった事を想定し、従業員の20万円の決裁権を紹介。今目の前にあるクレームをしっかり対応することで、その人から受け取る生涯利益を優先して考える事を説きます。

ビジネス書式ほど詳しくはないが楽しめる

これらの手法により、レクサス1店舗でトヨタ10店舗と同じ利益が上がったそうです。購入し満足を得る見返りにたくさんのお金を支払う事自体は私は否定しません。購入者が満足する製品、接客応対やサービスが行われれば、それは適正価格と言えるからです。

もちろん、過剰なサービスは慎むべきだし、そのために高いお金を支払うのは馬鹿げています。木村隆之社長がボルボに入り従業員に突きつけた「プレミアム路線」とは、適正価格で商売し最大の利益を生みなさい、ボルボという製品ならそれができる、と言いたかったのかもしれません。

何れにしても第1章にはさまざまな経営手法が広く浅く散りばめられており、興味を引く事も多々出てきます。詳しく掘り下げて説明こそされてたいませんが、忘れていた何かを思い出させてくれました。散りばめられたヒントをうまく使いたくなる。成功事例のオンパレードだから、必然的に手を出しやすくなる。なかなか良い話を聞けました。

と思ったのですが。

後半の経営手法は今のVCJそのもの

木村隆之著 最高の顧客が集まるブランド戦略

ボルボの経営手法についてはがっかりな話ばかりです。ものすごく簡単に言えば、今のVCJそのもの。

例えば、300万円の平均販売価格を500万円にあげた理由が、データを分析した結果、購入層を理解したからだと言います。木村社長が着任時、ボルボの既存顧客はメルセデスやBMWに並び、良質な顧客が多かったそうです。世帯収入で負けていない、と。

そこで、ボルボをプレミアムブランドへ上げ、販売平均価格を上昇させると決断します。これは足元を見ているといいませんか。

利益を生み出さないユーザーは要らない

本の内容によれば、2018年の販売台数のうち半数がご新規さまだといいます。ボルボをプレミアムカーと見て、メルセデスやBMWではなくボルボを購入した方々が全体の半数もいたと言うのです。プレミアム化路線に舵を切ったからこそ、これほどの比率で新規顧客開拓ができたと言っています。

一方で既存客は置いてきぼりであることは間違いありません。ボルボは値上げの真っ最中。5年前よりプラス100万円なんて珍しくもありません。

著書の中ではどのように世間へアピールしていくか、どのように情報を解析するかという「売る手法」は書いてありますが、既存顧客を大事にする手法は記載がありません。安い車は売る気は無いようです。

木村隆之社長はボルボをプレミアム化することが悲願であり、それは良く捉えればディーラーが儲かることであり、従業員満足度が上がることであり、従業員満足度によって顧客満足は履行されるからだとしています。だから、値段を上げ、値引きを抑制することは避けられない。ボルボはもう、昔のような準プレミアムカーには戻らない。

簡単に言えば、利益を生み出さないユーザーは要らないという事です。それが例え、今までボルボを支えてきたユーザーであってもです。

新規顧客と既存顧客の両立は無理なの?

もしも新たなプレミアムボルボと、今までのボルボのどちらも大切にしたいなら、しっかりと価格帯を考えた構成で値付けをすることでしょう。標準装着されるオプションも吟味するはずです。エンジンも安いものをラインナップするでしょう。でもそれをしないのは、プレミアムしか考えていないからです。

2019年にボルボ内で流行るであろうプラスパッケージ。これをうまく構成すれば、今までのボルボ価格帯と豪華価格帯は共存できるはずです。XC90には良い事例である、エクレセントなんていう素晴らしいモデルがあるのです。やって出来ないことはないはずです。

プレミアムボルボを好いて購入してくれたお客様に失礼だとでも思っているのでしょうか。プレミアムボルボと既存ボルボ顧客、天秤にかけるとしたら、利益を産まない客から切るのは当然、なのでしょうね。

利益主義とオゴリ

木村隆之著 最高の顧客が集まるブランド戦略

このように読み解いてみれば、プレミアムボルボという選択自体がミスだったとわかります。安全装備で質実剛健ボルボ、命を守るファミリーカー。この流れを伸ばすといった考えに至らなかったから、いまのバカ高いオプション構成が実行できるのでしょう。

著書の中には木村塾という文言があります。ディーラーの社長を呼び寄せ、経営手法や顧客満足の手法を伝えているのだと言いますが、実際には木村塾とは言わないそうです。ただ周りの人が木村塾だと言い出した、だから著書で紹介したと言うのですが、これこそ自分がかわいくて仕方ない性格。おごりを感じずにはいられません。

結局後ろ7割は木村隆之社長が施したとされるボルボのメニューの説明です。こういう仕組みにしたんだよ、すごいでしょ?の繰り返しです。

aboutVOLVOの指摘するところは記載なし

そしてやはり、ディーゼルの販売中止やリセールの悪さなどには一言も触れません。自分に不利になりそうな発言は控えています。さすが武勇伝。ディゼールNoも武勇伝にしてしまえばいいのに。

さらに酷いのはブリッジスマボの事例。せっかくの使用料1%なのだからと、V90のブリッジスマボ もあった事を明かしています。700万円のV90を、最長1年間毎月1%の支払いで済む。保有しているディーラーの負担はすごく、中古で流しても利益が出るどころか赤字だし、そもそもVCJがディーラーへ抑止をかけているはずで、推奨されるものではありません。それを堂々と言ってしまう。

オゴリまみれで無責任な利益主義者という他ないでしょう。

ボルボにはブランド戦略が必要か?

ボルボディーラーとS40

さて、最後に本題です。ボルボ・カー・ジャパンは、木村社長の考え方、ブランド戦略を取り入れる他なかったのでしょうか。

木村隆之社長の戦略は多岐にわたり、ドレスコードの決定や建物のデザインの共通化、青山ショールームの開設など様々です。しかし、実際にブランド戦略を練らなくても、XC60、XC40という最高のクルマが生まれてきた。高額路線化を嫌う人もいる。ブランド戦略など必要あるのでしょうか。

aboutVOLVOとしては、「限定的に取り入れる必要あり」です。

確かに10年前のボルボは、普通のディーラーでした。普通以下だったかもしれません。例えば、私がV50を購入した直後にセールスさんが転勤になられたのですが、引き継ぎのセールスさんは訪問もなければ電話もない。ディーラーへ出向いてもメカニックとしか話をしませんでした。

その対応は随分と良くなりました。顧客満足という考え方が浸透したのでしょう。

ここはあえて木村隆之社長を立てた話し方をしますが、PAGインポートという会社はかなり評判は良くありませんでした。特定の車種の欠陥を隠していて、一部メディアから叩かれていたことを覚えています。フォードを離れたときにボルボの日本法人として再出発する事になるのですが、やはりセールス力は低かったと思います。

そのPAGインポートをまともな会社にするのには、並大抵なリーダーシップでは到底無理でしょう。木村隆之社長がせっかく素晴らしいアイデアを披露しても、人を根底から変えるのは難しいのです。(著書の中でその事にも触れています。)

外部からの「ブランド戦略」というものを取り入れて初めて、今のVCJがあります。

上り調子も油断するな

V50のメーター

ここまでなんとか顧客満足を浸透させ、しっかりとした接客ができるようになり、たまたま素晴らしいクルマが輸入されてきた。ブランド戦略も調子が出てきた。いまVCJは本当に上り調子です。

従業員満足度も上がってきているのでしょうか。うまく「ブランド戦略」がハマるといいですね。

しかしV60のオプション構成変更のように悪どいやり方をしていれば、次第に勢いは下がっていく事でしょう。そんな時に受注を助けてくれるはずの既存顧客の多くは切り捨ててしまっています。

リッツ・カールトンのように生涯利益を追求したいのであれば、あなた方を支えてくれた今までのボルボファンをないがしろにしてはいけません。これだけを強く伝えて、今回のお話はおしまいにいたします。

著書の紹介

ところで・・・この著書には自動車評論家の小沢コージがコラムを担当していました。木村隆之社長は「第三者目線で経営手法に鋭く切り込んでいただく」となっていましたが、鋭いどころか甘々ちゃんでした(^^;)

基本的には追従意見が多く、木村隆之社長の言葉の解説のようなものでした。1500円も取るんだからさ、もう少し鋭く切り込んで欲しかったですね。せっかく面白い切り口のコラムを書いているんだから。

最高の顧客が集まるブランド戦略 ボルボはいかにして「無骨な外車」から プレミアムカーへ進化したのか

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その面白い切り口の小沢コージさんのコメントが読める、「最高の顧客が集まるブランド戦略」へのリンクはこちらです。

あなたがプレミアムボルボがお好きなら、今のボルボを形成している根本的な考え方がわかる本として参考になります。

昔ながらのボルボがお好きなら、ボルボを支持するか見限るかの良い判断材料になります。「最高の顧客」って、お金を出してくれるお客ですからね?

なお、ざっくりとした感想としては、この書籍は「木村信者を増やす為のもの」です。決してブランド構築に困っている経営者向けではありません。本当の経営者ならとっくに行っているはずな事ばかりですので。

ただ、ボルボにツッコミを入れたい人には、なかなか面白い書籍です(^^)

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